いつでも電報
人の手に沿う形とは、ラウンドフオルム(角が丸い形)である。
だから本体は上面の角は直角だが、下面はどの部分にもアールの角度を施した。
それは、両手で持って運ぶ時に、手に優しく当てるため。
子の感触が優しいのである。
ユーザーインターフェイスには徹底的にこだわった。
電源、ボタンを思い切り大きくし、しかも丸くした。
これはどの方向からも、たとえ後ろからでも子を伸ばして、電源を入れたり切ったりできるようにという配慮からだ。
どこからみても、これは電源スイッチである、と分かる。
四角いスイッチだと、端の尖った部分で怪我する可能性もあるから、丸にした。
子供が使うものだから念には念を入れて、蓋をとくに丈夫にした。
ABS樹脂の肉厚を部分的に厚くして強化もした。
Gは本体、コントローラーという主要部分だけでなく、メモリカ-ドなどの周辺機器も、また、後に出るアナログコントローラーなどの追加バージョンに至るまで、すべてのプレイステーションのアイテムをデ、ザインした。
全部をG一人でやったことが、プレイステーションのデザインの最大の本質ではないか。
「Sがやっている、他のカテゴリーの製品は、それなりに歴史があり、デザインのやり方も決められた流れを持っています。
しかし、プレイステーションの場合は何のお手本もない。
あるのは、ほかと違うものをやるというコンセプトだけです。
そうであるなら、このゲ-ム機のカテゴリーの製品、まず、周辺機器については、全部面倒をみよう、と。
こんなことは既存のジャンルの製品では絶対にできないことだけど、初めてのジャンルなんだから、気の済むまでとことんやってみよう」というのが、その時のGの思いだった。
Gの本体デザインの狙いに、Kも即座に賛成してくれた。
「良い物を作るには時聞がかかります。
しかし、時聞がかかっても初めにひらめいたモチーフが決局は、最後まで残るものですね。
ピュアな発想をいかに形にするかが重要なポイントなのです」しかしこれほど苦労した製品も、ほかにないスムーズに運んだのはそこまでだった。
苦心してつくったコントローラーをKに見せたところ、「なに、これ?形は斬新だけれども、使いにくいんじゃないの?これではゲ-マーが納得しないよ」と即座に拒否されてしまった。
Gの考え出したコントローラーはそれまでのものとは完全に異なるものだった。
従来のものは、どれもファミコンで開発された形を踏襲していた。
偏平な形で、それを右手と左手で持ち、どちらの手も親指で、ボタンを押すというものだった。
ところがGのコントローラーは、まったく違った。
それまでのものを平面造型とすると、それは立体造型なのだ。
Gは、そのコントローラーを、まずOのところに持って行って見せた。
Oはこう言った。
「なかなかいいじゃないか。
Sらしくて」。
Oは商品にうるさい経営者である。
試作機に対して、なにかと注文をつけるのが常だが、Gのコントローラーに対しては、すぐに賛成してくれた。
しかし、そう言ってくれるのはOだけ。
あとの関係者はみんな反対するのである。
この形そのものが、それまでの常識を外れ、衝撃的だったからだ。
特に反対したのはKだった。
初めてのゲ-ム市場であり、革新的な技術であり、流通方式であるのだが、ユーザーとのインターフェイスの部分は、ゲームとして確立した資産を使っていこうーーというのが、Kたちの一致した意見だった。
これまで子供たちが慣れて来た指先で操作するコントローラーを採用するのがベストという判断だった。
デザイン変更を迫られたGは、しかし、直すのはいやだと言い張った。
この形にたどりつくまで、一年以上の期聞をかけていたからである。
新世代を切り開くゲ-ム機なのだから、コントローラーはこれまでにない新しい形であるべきだとの思いもあった。
「Sに入社して二一年になるが、これほど苦労した製品も、ほかにありません。
コントローラーのデザインは本体より、何十倍も大変でしたよ」。
発泡アクリルの固まりを削り、それをためすがえす握り、掌の感触を確かめる。
そんなことを繰り返し、繰り返し行う中で、形が絞られてくる。
それまでの平面型コントローラーは何が問題なのか。
使う時にギュっとホールドしなければならないから、ストレスを持ってしまうことである。
力を緩めると掌が離れてるから、いつも力を入れていなければならない。
しかも人の手のサイズはさまざまだから、ボタンまでの距離も一定ではない。
だから距離が短い場合にはよりギュっと持たなければならない」Gの発想はまったく違った。
いかにしたら自然な形で持てるかを、テーマとした。
ギュと握らなければならないというのはダメ。
強く握らなくても、確実にホールドできる形として、グリップのように前に出た立体造型を考えた。
「実は握つてはいないんです。
下から指で支えているだけ。
にスキ聞があるからゲ-ムに熱中し、興奮してきた時でも、しかもコントローラーのボディと指の間で汗がたまらずに蒸発するんです」。
ユーザーに、持ち方を強要しないという、このコントローラーの良さをG自身が改めて認識したことがあった。
それが、モニターとして子供たちに集まってもらった時だった。
子供たちは、スーパーファミコンの偏平なコントローラーを毎日使っていたから、初めは、立体グリップが二つ角のように出ている、プレイステーションのコントローラーに少し戸惑っているようだつたが、す?に慣れてガンガン遊び始めた。
観察していると、ひととおりのことを飲み込むと、もうあとはそのまま遊びの世界に入っていく。
これまでのものと形が違うことなど、何も気にしていないようだ。
それどころか、とても使い良いという感想も返ってきた。
子供は正直だ。
良い物はよい、悪い物は悪いーーとはっきりと言う。
彼らが使っている様を見ていると、いろんなやり方Gが思いもしなかったような形で使っていることに気付いた。
上げたり、下げたり、斜めに使ったり、後ろから操作したり、ユーザーは好きなように使っている。
平面コントローラーでは、そんな使い方はできなかった。
一定の姿勢、一定のホールデイング、一定の指使いを強要された。
ところが、Gのデザインは「このコントローラーって、こんな使い方もできるんだ」という発見に満ちていた。
それは、Gにとっても衝撃的な光景だOの「これは社長命令だ!」しかし現実にはKをはじめ、制作現場のクリエイターたちもこのコントローラーに大反対している。
どうなるのか、苦労したコントローラーの行く末は…。
腰着してきた事態は、Oの一喝で決定に至った。
「このグリップ型のコントローラーは、私の見るところ、とても使いやすく、子供から大人まであらゆる世代に喜んで使ってもらえるものだ。
四の五の言わず、採用しなさい。
私が社長なのだからそうやりなさい。
でなければ、君らはクピだ!」とまでOは言い切った。
そこまでOが強要して、やっと採用された。
逆に言うとKたちの、この形に対する違和感がいかに強かったのかということでもある。
そのOの話を聞きながら、Gは「やっと苦労が実った」と思った。
「その場に立ち会っていて、本当に嬉しかったですよ。
O会長が、そこまで言うかと思えるほど、あのデザインを認めてくれたことが」。
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